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貸切バスのヒヤリ・ハット(ハインリッヒの法則)


貸切バス事業の安全対策強化

国土交通省は、2016年1月、軽井沢スキーバス事故を受け、事業認可の取り消しや運行管理者の資格返納など、貸切バス事業者の安全対策の強化に乗り出した。

貸切バスのヒヤリ・ハット

安全対策を考える上で運行管理者ならば知らない人はいないのが「ヒヤリ・ハット」である。1件の大きな事故の背後には29件の軽微な事故があり、事故に至らなかった300件のヒヤリとしたり、ハッとした事例があるという。これはアメリカの保険会社で働いていたハーバート・W・ハインリッヒが5000件ほどの労働災害の調査から導き出した統計学的な数値で、「ハインリッヒの法則」と呼ばれる。つまり、重大な事故の前には必ず事故につながる予兆があるという。
「ハインリッヒの法則」は貸切バスの運行にもそのまま当てはまる。重大事故を未然に防ぐためには、運行管理者が運転中に起こった「ヒヤリとしたこと」、「ハッとした出来事」を重大事故の予兆として受け止めることが大切である。

ハインリッヒの法則ピラミッド

 

点呼の重要性

軽井沢スキーバス事故では、貸切バス会社が日常的に点呼を怠る等の、運行管理の基本的義務が守られていなかったと報道された。点呼は貸切バス事業者の義務である。また、安全管理上も重要な業務で、運転者の健康チェックや運行ルート確認など、出発前に運転者とのコミュニケーションを深める大切な機会である。もし点呼をやらなければ、その日の天候や道路工事の状況、事故発生率の高いポイント、迂回路の指示、整備点検の状況の確認など、運転者が知っておくべき重要な情報を伝える機会が失われる。

点呼にはもう一つ大きな役割がある。運転者の健康状態のチェックである。
出発前の点呼は出発を前提に行われる。出発直前に体調不良を訴えれば、運行管理者は慌てる。運転者は会社や運行管理者、あるいは替わりの運転手に迷惑をかけたくないため、多少体調が悪くても言い出しにくくなる。
しかし、常に体調万全という人はいない。運転当日になって、風邪や寝不足、お腹の調子が悪いといった体調不良は誰にでも起こりうることで、容易に想定できる事態である。
運転者不足や高齢化、収益減など貸切バス事業者の状況は必ずしも良好とはいえないが、それでも運行管理者は、こうした事態に備えて代替運転手を常に確保し、道路状況や天候などに気を配りながら、万が一のとき慌てないように別プランも検討しておくのが理想である。また、少なくとも運転者が臆せず、自分の体調について申告できるような職場の雰囲気づくりを日ごろから心がけておきたい。

事故はいつ何時起こるかわからない。確かにその通りであるが、リスクを減らすことはできるはずだ。

例えば、トラック運転手の場合、月曜日と木曜日に事故が起こりやすいという。休み明けの月曜日は体が慣れていないためウトウトして事故を起こす。木曜日は疲れが溜まってくるためだという。傾向が分かれば対策も考えられる。
運行管理者は小さな「ヒヤリ・ハット」を見逃してはならない。その上で、「なぜ起こったのか」「どうすれば未然に防げるか」というように原因を探り、対策を考え、全員で共有することが大切である。

貸切バス事業者に対しては、ドライブレコーダーの装着が近々義務化される。ドライブレコーダーは、運行管理者がドライバーの運転の様子や危険な兆候を知る手がかりになる。事故にはならなかったヒヤリ・ハットが正確に記録されるのだ。

デジタコ連動オプション

国土交通省のロードマップによれば、貸切バス事業の安全対策として、来春以降、デジタル式運行記録計(デジタコ)や運行管理支援システムの導入を進めるという。貸切バス事業者のデジタル運行記録計(デジタコ)装着は業界全体でまだ3割程度。現在は条件付きで義務化されているが、今後条件が拡大し、より多くの車輌に装着される可能性が高い。

バス運行管理システムSPでは、これまで運行記録を手入力で行っていた。しかし、デジタコ連動オプションを導入すれば、デジタコのデータをCSVで取り込めるようになり、より正確な運行管理ができるようになる。運行管理者がヒヤリ・ハットを見抜き、その原因と対策を考える上で、デジタコ連動オプションは効率的なツールである。

ヒヤリ・ハットは統計データに過ぎないが、労働災害の現場から導き出された経験則である。この経験則を活かすのは、事業者や運行管理者の危険察知能力であり、重大事故を他人事と思わないで自分のこととして捉えなおすことができる想像力である。

交通事故のヒヤリイメージイラスト

( 2016.08.29)

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